大阪地方裁判所 昭和57年(行ウ)123号 判決 1983年12月02日
原告
東洋製鉄株式会社
右代表者
音頭直次
右訴訟代理人
大槻龍馬
谷村和治
安田孝
被告
東淀川税務署長
小池喜芳
右指定代理人
布村重成
外三名
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実《省略》
理由
一請求原因1項、3項ないし5項記載の事実は、当事者間に争いがない。
二原告は、本件更正の請求が認められるべき根拠として、国税通則法二三条二項一号にいう「判決」には刑事事件の判決を含むと解すべきであると主張するが、同号は「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の基礎となつた事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」に更正の請求ができる旨を規定しているのであり、その趣旨は、同条一項に定める一般の更正の請求の例外である後発的事由による更正の請求ができる場合のひとつとして、例えば不動産の売買があつたことに基づき譲渡所得の申告をしたところ、後日になつて右売買の無効確認訴訟を提起され、判決や和解によつて右売買がなかつたことが確定した事例のように、申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実関係について私人間に紛争を生じ、判決や和解によつてこれと異なる事実が明らかにされたため、申告等に係る課税標準等又は税額等が過大となつた場合に、更正の請求を認めようとするものである。したがつて、右にいう「判決」とは、申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実についての私人間の紛争を解決することを目的とする民事事件の判決を意味し、犯罪事実の存否範囲を確定するに過ぎない刑事事件の判決はこれに含まれないものと解するのが相当である。
三原告は、右にいう「判決」に刑事事件の判決を含めないと、同じ法人の同じ事業年度の所得について二つの異なつた課税標準が存在することになり、極めて不当な結果を招来することになると主張する。しかし、課税手続においては、適正かつ公正な課税を行うために課税所得金額を確定するのに対し、刑事裁判手続においては、逋脱罪の成立の判断及び適正な処罰を行う前提としていわゆる犯則所得金額を確定するものであつて、両者はその目的を異にしており、右確定のための手続も別個に定められているのみならず、刑事事件の判決で認定される犯則所得金額は、被告人が偽りその他不正の行為により、故意犯として免れた租税に関する所得金額に限られるのである。したがつて、刑事裁判の判決によつて認定された犯則所得金額と、課税手続上確定された課税所得金額とが異なることがあつても、両者はその目的と手続を異にする以上やむを得ないものといわなければならず(最高判昭三三・四・三〇民集一二巻六号九三八頁参照)、わが法制の下においては、逋脱罪に対する刑事判決があつた場合、課税手続上確定している課税標準額が刑事判決によつて認定された事実によつて拘束かつ修正されるという制度は採用されていない(最高判昭三三・八・二八税務訴訟資料二六号八一五頁参照)。
(青木敏行 紙浦健二 梅山光法)